王太子殿下と王宮女官リリィの恋愛事情
「リリィ、あなたの気持ちを訊きたいの」
王后陛下の訪問なされた一番の理由は、きっとこれだろう。動揺を悟られないように気をつけながら、淹れたお茶を王后陛下に供した。
「ありがとう、早速いただくわ」
王后陛下がソーサーごとティーカップを持ち、お茶を口にされる。ひとつひとつの仕草が優雅で、やっぱり品格が違う。
「突然こんなことになって、驚いたし困ったでしょう?」
「……はい」
イエスかノーかで答えるしかないならば、イエスしかない。いいえ、と答えられるほどわたしは図太くないし、素直に答えた方が王后陛下の誠意にお応えできると思う。
わたしに命令できるお立場なのに、こうしてわざわざ気持ちを直接訊いてくださる。身分に胡座をかいている人には滅多にできないことだ。
わたしに体を労るお見舞いの品を振る舞ってくださった事や、余計なことを言わず抱きしめてくださったことも。陛下の素直で思いやりあふれる優しいお方、ということを示してる。
だから、わたしはこの方には誠実に答えよう、と思う。
「メイフュにも困ったものだわ。あの子は昔から実情型で…思い込んだら一直線なところがあるものね」
あの子、と王太子殿下をただの困った息子扱いする王后陛下は、どこにでもいそうな母としてのお顔をされてらっしゃって。わたしもなんだか吹き出しそうになった。
「王太子殿下は…そんなに困ったお子様でしたか?」
「ええ、妹のイマが生まれた時も拗ねて家出したわ……たぶん、焼きもちを焼いたんだと思うけど」
「…そうなんですか?」
意外な過去を聞いてしまってあ然としていると、王后陛下は母親だからこそ知っている王太子殿下のエピソードを次々と披露してくださった。
「メイフュはね、なかなか友達ができなくてカインをそばに付けたの。あの子、不器用だし自分の気持ちを言葉で表すのが苦手でしょう?小さい頃は、カインをよく泣かせてたわ。多分、仲良く遊ぼうとしたけど上手く誘えなくて強引になっていたんでしょうね」