王太子殿下と王宮女官リリィの恋愛事情
「だから、あなたにも強引になってないか心配なの。
あの子はあなたをこの王太子妃の小宮(プチ・パレス)に住まわせた。
つまり、あなたを王太子妃にするつもりと宣言したようなものよ。
内侍局は既にその意志で統一されていると聞いたわ。
あなたが合意した上でなら良いのだけど、もしもあなたの同意無しにことを進めているなら、わたくしは認める訳にはいきませんもの」
王后陛下のお言葉には引っかかる点があって、どうしても訊かなきゃいけない気がした。
「あ、あの陛下…」
「リリィ、遠慮しないで。あなたの一生がかかってくる問題だもの。疑問があるならどんな些細な事でも訊いてちょうだい」
不敬に当たらないか、と悩んだ。けど、確かに王后陛下のおっしゃる通りだ。ご厚意に甘えすぎかもしれない…でも。自分の意志や気持ちを無視して流されたくない。
「わたしは…ここに住んだのは確かに同意ではありません。
けど……親もいない孤児ですし、一般人です。身分もないわたしにとても釣り合うとは思えません…で、殿下には…隣国からの縁談もあるとお聞きしました。国を……国益を考えるなら、そちらの方が相応しいかと」
「確かに、王后としてはフィアーナ王国との縁組を最優先で進めるべきでしょうね」
王后陛下はさらりとおっしゃって、やっぱり…とわたしは思う。政治に少しでも関わるなら、王家の常識として少しでも益がある政略結婚を考える。当人の気持ちや感情など二の次として。
「でもね」
王后陛下はティーカップをソーサーに戻すと、にっこり笑った。
「わたくしの母は平民よ。平民からノプット王国の王妃になったの。そして、わたくしは初恋がアクエル…今の夫なの」
アクエル?確か、ガラザ2世陛下のミドルネームだ、と思い出した。
「リリィ、もし嫌ならハッキリ言って欲しいわ。無理強いはしたくないもの。
けど、母親としてはメイフュの応援もしたい…だから、お願い。ほんの少しの間でいい。あの子を見てあげてほしい。そのうえで嫌なら、わたくしが責任を持って止めさせると約束します」
王后陛下にそこまで懇願されて、NOと言えるほどわたしは強くなかった。