王太子殿下と王宮女官リリィの恋愛事情
ところが、意外な闖入者がこの場の雰囲気を壊した。
「フィフス、待ちなさい!」
「やだよ〜だ!」
ガサガサ茂みが動いたと思うと2つの小さな影が飛び出してきて、王后陛下にしがみついた。
「お母様、フィフスがわたしの大切なぬいぐるみで遊ぼうとするんですよ!お母様から注意してください」
「ふふ〜んだ!イマ姉様はたくさんぬいぐるみを持ってるんだ。これくらいいいだろ!」
シルバーブロンドの髪を緩く巻いた女の子は10歳くらい。薄いピンク色のドレスは白い肌によく合っていて、ブルーグリーンの目は大きくぱっちりして可愛らしい。間違いなくイマ王女殿下だろう。
もうひとりの7つくらいの男の子はプラチナブロンドがくしゃくしゃに乱れているけど、整った顔立ちはメイフュ王太子殿下にそっくり。青い礼服も王族特有のものだし、あしらわれた紋章も専用のデザイン。第2王子であられるフィフス王子殿下だ。
「あらあら、こんなに乱れて…また、暴れたのね。しょうがない子」
王后陛下は優しくフィフス王子の乱れた髪を手ぐしで直すけど、母親らしい穏やかな眼差しを…少し、羨ましいと思ってしまう。
「フィフス、それはイマの大切なものよ。返してあげなさい」
とはいえやっぱり母親として優しいだけでなく、時には厳しさも必要。お母様が注意したからか、フィフス王子は渋々手にしたぬいぐるみを姉に返した。
けど、そこでひとつのトラブルが発覚した。
「あ〜っ!クマの手がとれてる!!」
イマ王女が悲鳴のように叫んだ通りに、クマのぬいぐるみの左手がちぎれかかってた。乱暴に振り回してたせいだろう。
「フィフスの馬鹿!せっかくマリナがわたしのためって作ってくれたぬいぐるみなのに…!!」
よほど大切なものなんだろう。イマ王女の瞳にみるみる涙が溜まって、今にも流れそうになった。