王太子殿下と王宮女官リリィの恋愛事情
唐突に、フフッと笑い声が聞こえた。
見上げれば、カインさんが微かに肩を揺らして笑ってる。
「なるほど…よく出来た茶番だ…」
彼はわたしをチラリと見て、小さく呟く。
「赤茶けた癖毛…日に焼けた肌…そばかすに…小柄な体…」
まるで批評されるように体の特徴を挙げられ、さすがに失礼だとムカッときた。
「あの…」
「…本当に、よく見つけたものだ。あのひとに似た女、を」
あのひと?
カインさんの発言に気を取られているうちに、起きた出来事への対処が遅れた。
わたしの目の前数センチの距離で光るのは、白刃の切っ先。素早く抜刀したカインさんが、冷たい笑顔でわたしにこう告げた。
「…あんたは、王太子殿下に近づくな。何かあってもな」
「…………」
一瞬、首筋から背筋がヒヤリとした。
殺気というものだと思う。彼は本気で、わたしを傷つける気だ。剣呑な眼差しも、張り詰めた空気も、わたしを拒むもの。
本能的な恐怖から、体が勝手にガタガタ震えた。
だけど…
わたしはギュッと布団を握りしめ、キッとカインさんを見上げた。
「いや、です…きゃっ!」
音もなく剣が動き、シャツの片袖がパラリと落ちる。斬られたんだ、と肩に焼け付く痛みを感じながらそこを片手で押さえた。
「もう一度言ってやる…メイフュ王太子殿下に近づくな」
氷のように冷たいカインさんの声に、自分自身でも血の気が引いた顔をしてるってわかる。でも、グッと唇を噛みしめて彼を睨みつけた。
「絶対に、いや!わたしは…王太子殿下のおかげで生きてこられたんです。恩返しがしたいだけ…それだけなんです!!王太子殿下のお役に立ちたい…だから、絶対諦めたりしない!」