王太子殿下と王宮女官リリィの恋愛事情
「兄上!うまく馬に乗れるようになったよ!見て!」
「フィフス、ずるい!兄上はわたしと草遊びするの。今度はわたしの番でしょ」
わぁっ!ときょうだいに抱きつかれたメイフュ王太子殿下は、「わかった、わかった」と両手を挙げて降参のポーズを取った。
「母上、今日はお休みしましょう。湖にピクニックはいかがですか?」
「まぁ、素敵な計画だけど…お仕事はいいのかしら、王太子殿下どの」
にっこり笑顔の王后陛下に、王太子殿下はそつない笑顔でお返しする。
「あいにく、本日の分は全て片付けて参りました。ヴルグが目を白黒させてましたがね」
ピクニックと聞いて、フィフス王子もイマ王女も飛び上がるほど喜んだ。
「わぁい!ピクニックだ。ピクニックだ!」
「わたし、クマと一緒にいくわ。お揃いのお帽子被るの」
イベントがあるとはしゃぐのは、孤児院の子どもと変わらないな…と懐かしく思いながら、わたしは関係ないと部屋を出ようとした時、王太子殿下に腕を掴まれた。
「リリィ、なにをしてる。おまえも支度をしろ」
「え…で、でも…わたしは」
「いいから、来い。マルラ、リリィに支度をさせろ」
「はい!承知しました」
王太子殿下はマルラに命じると、くるりと踵を返す。そして、ぽつりと呟いた。
「……少しは楽しめ。おまえの人生に少しでもそういう思い出があってもいいだろう」
「……殿下」
もしかして、わたしをお連れくださるのはそのためなの?
確かに、わたしの人生は働きづめの毎日だった。孤児院のお手伝いをしながらからす亭で働いて。勉強を始めてからは睡眠時間を削ってたし、本を読む時くらいしか楽しみがなくて…。
それが当たり前の毎日だったし、そうして老いていくものだと思ってた。
なのに…王太子殿下は、安々とその毎日を壊してしまった。