王太子殿下と王宮女官リリィの恋愛事情
わたしが馬に乗れない、と知った王太子殿下は、突然わたしを抱き上げると先に馬の背に乗せてくださった。
そして、後ろに乗ると馬に跨り両手でわたしを抱えるようにして手綱(たずな)を持つ。
(か、体が…)
まるで後から抱きしめられてるような姿に、顔が熱いし心臓は爆発寸前になってる。
背中に感じるぬくもりが熱になって全身を回る。逞しい殿下の腕の中は…なんだか心地よくて…。
馬に乗るのは初めてでかなり揺れたけど、王太子殿下が配慮してなるべく荒れていない道を通って行ったから楽だった。
王后陛下とイマ王女は馬車で、フィフス王子は小さな馬に乗ってる。途中でリタイアし、馬車に乗ることになって悔しがってらしたのも微笑ましい。
国王陛下はどうにも抜け出せないため、残念がってらっしゃったみたいだ。
4月のよく晴れた穏やかな午後。到着したのはルシュル河沿いの森林公園。ピクニックには最適な爽やかな風が吹き、きらきら光る川面が美しい。
「リリィ、ほら!この草なら強いわよ」
「え、そうなんですか?よいしょ、っと」
草同士の強さを競う草遊び、を初めて知った。ノイ王国の南では頑丈な野草が多いから、草と草を絡ませ引っ張り合い切れた方が負け、というシンプルな遊びだ。
イマ王女に教えてもらい、勝負したけど5戦4敗1分と惨敗。今も負けてしまってガックリ。
「ふふ、まだまだね?」
「おみそれしました。師匠!」
調子に乗って失礼なことを言っても、イマ王女は満足したように「うむ、精進しなさい!」と頷いて。お互い、可笑しくなって笑いあった。
「ふふ、リリィったら、草を探しすぎて顔が土まみれよ!」
「イマ王女殿下も、お手が緑色に染まってますよ」
いつまでもこうしていたい、と思ったのは生まれて初めての経験で。
遊び疲れて眠り込んだのも、初めて。
メイフュ王太子殿下が腕の中で眠るわたしに微笑みながら「おやすみ、リリィ」と口づけたのも知らなかった。