王太子殿下と王宮女官リリィの恋愛事情

「ちょっとリリィ、ずぶぬれじゃない!大丈夫!?」

宿舎に戻るとマルラが悲鳴を上げて、すぐタオルを持ってきてくれた。

「ありがとう。でも、すぐお風呂に行くからいいよ」
「あ、ならあたしも行くよ。まだ入ってなかったんだ」

マルラもお風呂セットが入ったかばんを持って、ウキウキしながらドアを開ける。マルラの村ではわずかだけど温泉が湧いてたからか、彼女はお風呂好きなんだよね。
苦笑いして共同浴場に行くと、さすがに仕事終わりの時間帯だから少々混んでた。

手荷物はロッカーでなく係員に預け、番号札代わりのペンダントを身につける。

王太子殿下付きの女官宿舎とは言っても、内侍局で働く女官が利用することもある。
食堂と浴場は楽しみのひとつだから、みんな気が緩んで様々な話を聴ける時もあった。


「あ、リリィ。ダメだよ!ほら、体はもっとしっかり隅々まで洗って。あと、湯ぶねには肩まで浸かって100を数え終えるまで出ちゃだめだからね。しっかり暖まらないと」

お風呂好きなだけあって、マルラはこだわりが強い。ササッと洗って少し浸かれば満足のわたしにもしっかり指導が入る。


「はぁ〜生き返るねぇ」

浴場の壁に背を預け嘆息するマルラ…どこぞのおじさんみたい。怒るから言えないけど。

「そういえば、リリィ。最近発作起きてないよね?」
「…そういえば、そうだね」

マルラに言われてやっと思い出した。王太子殿下と過ごした夜以来、半月経つけど発作の予兆すらない。こんなに長いあいだ起きなかったのは初めてだった。


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