王太子殿下と王宮女官リリィの恋愛事情
「…やっぱり、殿下のおかげじゃないかな?」
「……そう、かもね」
マルラが声を潜めながら言ったことは、わたしも無視はできない事実だ。サラさんが王太子殿下しか浄化できないと言ってたし。
恩返しする理由ができたのに…わたしは。
「リリィ、本当にいいの?王太子殿下のお部屋には毎日毎日違う女官が来るんだよ。みんな交代制で決めて、順番が来たら王太子殿下への自己アピールがすごいんだから」
マルラが言うとおりに、今王太子殿下のお世話をする女官は持ち回り制になっている。
わたしとマルラ以外にも女官は30人ほどいるから、希望者だけでも1月に1度しかお目見えできない。だから、みんな一生懸命に自分を磨いてる。
「……うん、仕方ないよ。どだい、わたしじゃ荷が重かったんだ。わたしは王太子殿下を支える人たちを下から支えればいいよ」
「……」
「……わたしは、殿下の想い人とは違う人間だから…同じにはなれないよ」
「……リリィ」
出会った時に酔ってらした殿下は、“あいつがいるはずがない”って呟いた。その前のよく聞き取れなかった言葉は、きっと“彼女”の名前ーー。
痛ましいほど苦しげに、想いを伝えなかった自分は臆病者と自虐していらして……。
“彼女”に伝えていたら、きっと今頃は幸せになっていらしゃったかもしれない。
(……そうだ。わたしにもできること、見つけた)
王太子殿下に幸せになっていただくこと。
今の国王陛下夫妻のように、王族同士でも幸福なご結婚をされている方もいらっしゃる。
ならば、わたしはそれを応援すればいい。
“彼女”がどれだけ素敵な女性かは知らないけど。どんな女性だって魅力がある。女官として登用されたなら、教養もマナーもある程度保証されてるから。後は、王太子殿下と触れ合ってもらう機会を増やせば。殿下が気になる女性が出てくるかも。