王太子殿下と王宮女官リリィの恋愛事情

「ね、聞いた?」
「何がよ?」

女官は貴人と接する機会が多い分、侍女より情報通の時がある。入浴時や食事の時は気が緩み、色々喋りやすい。
だから、こういう時はしっかり聞いて情報を集めてた。

「近ごろ、北側の国境がきな臭いって話」
「北って…フィアーナ王国の方だよね?」
「そうそう。で、そのせいか…ほら、あのお貴族様の娘…なんて言ったかな。そうそう、レッドランの令嬢が王太子宮で幅をきかせ始めてるらしいじゃない」
「え〜!そうなの?」
「レッドラン令嬢は今のところ最有力候補らしいわ。フィアーナ王国の王家の血を引いてるから、有事の前に縁組みするかも…って」
「ひえ〜そんな有力なライバルがいたら、敵うはずないじゃない…あたしも他の娘みたいに、適当な下級貴族で手を打とうかしら」

かなり赤裸々な話がなされ、一緒に聞いていたマルラがそういえば、とわたしに耳打ちしてきた。

「レッドラン公爵の娘…アリス様だね。確かに、彼女3日に1度は王太子様の担当になってるよ。たぶん権力にものを言わせてか、お金で担当を買ってるよ。
あたしもすごい金額で代われって言われたけど、キッパリ断った。公爵令嬢は確かに綺麗な人だけど…本人はぼんやりしてて、何もしないの。侍女が幅をきかせてあれやこれやエラそうに指図してくるから嫌なんだよね」

鬱憤が溜まっていたのか、マルラは立て板に水のように喋ってくれた。

「……そうなの」
「ごめん、リリィ。別に隠していたわけじゃないけど。余計なことを言って悩ませたらいけないと思って。大丈夫!殿下はきっとリリィを気にかけてるよ」

明るく背中を軽く叩いたマルラも、ちょっと気にしてるんだ。王太子殿下がわたしになんにも言って来ないこと。

「大丈夫だよ、マルラ…自分の身は弁えてるから」

王族の血を引く公爵令嬢…しかも美しい。そんな人に敵うはずない。

そう呟いた瞬間、背中がぞわっと粟だった。

「!?」

振り向いてみたけど…誰もいない。

(気のせい…今、嫌な視線が……)

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