王太子殿下と王宮女官リリィの恋愛事情


深夜1時過ぎ。
マルラが深く眠り込んだのを確認したわたしは、そっと部屋を出ていった。

向った先は宿舎にある図書室。
寄付された様々な書物が収蔵されているから、こっそり通うのが楽しみだった。

「あんたもよく来るねえ。そんなに楽しいかい?」
司書官のキリさんにお願いすれば、深夜でも開けてもらえる。昼間は来る人が少ないから昼寝してる、という彼はだいたい夜起きて本を読んでるから、開けるのは構わないと言ってくれた。
キリさんは髭モジャでシャツは乱れだらしない印象を受けるけど、本好きが高じて貴族の子弟から司書をしてるため、かなりの物知りで教わる事も多かった。

「えっと…あ、これだ」

わたしが探していたのは、貴族の詳細が書かれた本。歴史はかなり詳しく勉強したけど、貴族についてはザッとしか覚えてない。

(レッドラン公爵家…あった。元々辺境伯だった古い家柄なんだ…)

ノイ王国は2200年の古い歴史があるけど、レッドラン公爵家は1000年以上遡ることができる歴史ある家系。
元々辺境伯として北の防衛を担っていたけれども、今の当主がフィアーナ王国との交友の証として旧王家の姫を妻に迎えた。

旧王家、というのも、元々フィアーナ王国は小さな国が集まって出来上がった連合国家。正式名称のフィアーナ及び東部連合王立国という名前の通りに、主権を持っていた旧王家等の発言力が未だに強い。
レッドランはその中でも最大の勢力を持つ旧王家から妻を迎え、北の国境の防衛に最大の功績を挙げたから、伯爵から公爵へ格上げされた。無論、世が世なら王女だったお姫様を迎えるための相応しい身分を、という意味合いもあるだろうけれど。

北の国境で何か有事があるとしたら、レッドラン公爵家の協力は不可避。だからアリス様を王太子妃に、という流れは自然だろう。彼女にはフィアーナの旧王家の血もあって、フィアーナと何かしらある時十分役立つ。


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