王太子殿下と王宮女官リリィの恋愛事情
(……これが、身分と血筋というもの。わたしには全くない“力”)
同じ協力や助力をするにしても、他人か身内かで優先するなら当然身内だろう。血縁があったり縁故なら、その分協力は得やすい。
アリス様は……王太子殿下にこれ以上ない益をもたらす。血筋も身分も悪くない。最上の美貌も……どれも、わたしがどれほど努力しても得られないものだ。
「得られない……って、なに?わたし……少しでも自分が王太子殿下に相応しいとか考えてるの…?バカじゃない!?」
ほんの微かにでも、可能性があると考えてしまってた?バカな…本当にバカで愚かなわたし。
「本当に…バカだ」
左手首に、未だにはまっている腕輪。王太子殿下の紋章が刻まれたそれは、何をしても外れない。だから、まだ王太子殿下はちょっとでもわたしを気にかけてくださっている…と。心の底では浅ましい期待をしてるくせに!!
「……ッ」
愚かで、醜いわたし。
本当は、アリス様が邪魔と思ってる。
いいえ。それだけじゃない。
女官の全員が居なくなってほしいと願い、王太子殿下に直接お仕えしてる親友のマルラにでさえ、妬んでた。
「嘘つき……本当は、誰より殿下のそばにいたいと思ってるくせに……」
ポトリ、と床に落ちる涙は綺麗なんかじゃない。
嫉妬で黒くなったわたしの醜い心から生まれたものだから、きっと何よりも汚いんだ。
……見られたくない。わたしは今、きっとすごく嫌な顔をしてる。
本で顔を隠して、声を押し殺しながら泣いた。