王太子殿下と王宮女官リリィの恋愛事情
微かに空気の動きを感じて咄嗟に後ろへ下がった瞬間、本棚がこちらへ向かって傾いてるのが見えた。
「!!」
「リリィ様!」
固まって動けないわたしを誰かが抱きかかえ、猛ダッシュでその場から離れる。その直後、ものすごい音を立てて本棚が床へ倒れた。
「おい、大丈夫か!?」
司書官のキリさんが駆けつけ、おいおい!と頭を掻いた。
「こりゃひでぇ!書架と本で数百kgはあるから、下敷きになってたら、今どきペッシャンコだぞ。よかったなあ、嬢ちゃん。サラに礼を言っとけよ」
「サラさん…?」
キリさんの言葉で恐る恐る目を開けると、サラさんがわたしに覆いかぶさっていてくれたのだと知った。
「リリィ様、お怪我は?」
「あ、わたしはなんともありません…ありがとうございます。それより、サラさんは大丈夫なんですか?」
「ありがとうございます。ですが、わたくしの事はお気になさらずとも結構ですよ」
女官のドレス姿をしたサラさんはわたしを助け起こし、てきぱきと全身チェックをしてからにっこり笑った。
「お怪我が無くて何よりですわ」
「いえ…でもサラさん、その格好は?」
「無論、リリィ様の護衛のためです」
キッパリと断言され、なぜ!という疑問が引込みそうになるけど。駄目だ、と抗議する事にした。
「なぜですか?わたしはただの女官ですよ。王太子殿下にお伝え下さい……相応しい方は他の人にいますから、と。わたしはもう無関係のはずです」
「申し訳ありませんが、それは出来ません」
サラさんは真顔でわたしの要望を拒んだ。
「な、なぜですか?」
「本当にお伝えしたい言葉がおありでしたら、殿下にお会いになり直接お伝えされるのが礼儀かと思われますが」
「……」
「それに…言い難いですが、先ほどの件はただの事故とは思えません。リリィ様、あなた様のお命が狙われたのですよ」