王太子殿下と王宮女官リリィの恋愛事情


しばらく睨み合いが続いたけど、トントンと階段を上がる足音が聞こえて。慌ててわたしはカインさんに飛びかかった。

「夕食持ってきたよ。…あれ、リリィ。何してるの?」

トレイを持ったマルラにきょとんとした顔で訊かれて、アハハと笑う。

「カインさんに剣を教えてもらっていたの!いっち、に、さんし!」
「あ〜すじはいいねぇ」

奪った剣で素振りするわたしに合わせて、棒読みなカインさん…もう少しやる気見せてくださいよ!あなたのせいなんですからね。

「だめだよ、リリィ。ちゃんと寝てなきゃ。カインさんも、ちゃんと見ててくださいよ!」

腰に手を当てて膨れっ面をするマルラは素直で可愛げがある。カインさんも髪をコームで整えて、フッと笑った。

「ボクの美しいレディ…君の望むままに」
(うわあ…本当にこんな人いるんだ…というかカインさんわたしと態度違いすぎ)

お姫様の前のように、跪いて女性の手に口づけようとするなんて。何だか白目になりそうだったところ、見事にキスをスルーしたマルラは目を輝かせてわたしを見た。

「ねえ、リリィはどんな理由で出仕するの?あたしはねえ、村のみんなのためなの」

マルラはベッドに寄せたテーブルに肘を載せて、懐かしそうに笑う。

「あたし、両親を10年前の流行り病で亡くしてね…それから村のみんなが親代わりになって育ててくれたの。寂しい時もあったけど、どんなに飢えていても…みんな、あたしのためにちょっとずつごはんを分けてくれて…
寒くてもひもじくても、心はあたたかかったよ。だから、今回のチャンスで村に仕送りできるようになったら…って思ったんだ。せめて、冬には薪をたくさん使えて、みんなお腹いっぱい食べられればって」
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