王太子殿下と王宮女官リリィの恋愛事情

「えっ…ただの事故じゃない?」
「そうだなあ…書架はつい先月問題ないかをチェック済みだし、地震時の転倒防止の処置と固定化をしたばかりだ。オレも立ち会ったから間違いない。ちょっと見たけど、金具が緩んでワイヤーは切られてた。誰かが意図的にそれをしたとしか思えん」

キリさんは既に倒れた本棚のチェックを済ませたらしい。流石というか、何というか。

とは言っても、わたしは心穏やかで居られない。命を狙われ殺されかけた…という事実がショックで、全身が冷えてガタガタと体が震え始めた。

「リリィ様…大丈夫です。わたくしがお守りいたしますから。それと、宿舎内ではキリもいますわ」
「はあーい、任せな!サラのダンナであるオレが責任を持って…うぶっ」

本が飛んできて、キリさんの顔面に見事に命中した。

「誰が、サラのダンナって?ただの腐れ縁の幼なじみなだけでしょ!」
「あーあ、30にもなって相変わらず乱暴なじゃじゃ馬だねえ。オレくらいしか扱いきれないんじゃない?…ぐげ」
「だ、れ、が!あんたに扱ってほしいと頼んだか!!」

分厚い本が10冊ほどまとめてキリさんの脳天を直撃し、肩を怒らせたサラさんは「リリィ様、行きましょう!」とわたしの手を引いてずんずん進む。

バタン!と乱暴に閉まったドアの音が響いてないか気にはなったけど。目をつり上げたサラさんが恐ろしくて口にできなかった。

「サラさん、キリさんと顔なじみだったんですね」
「ただの腐れ縁ですよ。たまたま領地が近い中流の貴族同士、親が仲良くなって家族ぐるみで付き合いがあって、たまたま年が近かったし、よし!ちょうどいいや、と安直に決められた婚約だってとっくに破棄しましたから。ただの幼なじみの他人です!」

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