王太子殿下と王宮女官リリィの恋愛事情
「ごめんなさい…でも、わたしは…」
駄目だ、と思うのに。やっぱり涙が溢れてくる。
「わたしは…ただ、たまたま殿下の想い人に似ていただけ…それだけで目に留まったただの女官です。
実の親にさえ捨てられたわたしには…何もない。殿下にお役に立てる血筋も身分も力も美しさも…アリス様ならたくさん持っているものは何一つ持っていないんです。きっと殿下の想い人も素敵な人だった…なのに。わたしは…そんな資格もないのに…みんなを妬んで…みんないなくなれと願う醜い女…なんです。こんなわたしのどこに、価値があると言うんですか!?」
サラさんは何も悪くないのに、思いっきり自分の気持ちをぶつけてしまってた。
「……羨ましいんです。生まれだけで殿下の隣に立てる資格のある女性達が……皆から祝福され生まれてなんの不自由もなく育ち……なんの障害も無く殿下と一緒にいられる……妬ましくて……やりきれなくて……だったら、と無関心を装うふりをして…やっぱりできなかったんです」
こんなわたしが、身分をわきまえずに王太子殿下を好きになってしまったなんて……なんて滑稽だろう。
たとえ下級でも貴族の令嬢ならば、もっと堂々と王太子殿下に近づけたのに。
「サラさん…あなたも羨ましい。殿下の近くにいられて…それだけ殿下を理解できて…あなたの身分があればわたしも…そんな醜いことを考えてしまうバカな女の子なんです。呆れたでしょう?
こんな愚かなわたし…もう放っておいてください。わたしもこれ以上醜い心になりたくありません…」