王太子殿下と王宮女官リリィの恋愛事情
「お黙りなさい!」
突然部屋のドアが開いたかと思うと、紫色のネグリジェを着たエリスさんが怒鳴り込んできた。
「聞いていれば、勝手なことをグチグチと…みっともないことですわ!」
「勝手って…」
夜中に泣いては確かに迷惑だったかもしれない…でも、人の話を勝手に聴いている人もどうなの?しかも、1番聞かれたくないデリケートな部分を聞かれた挙げ句、勝手と言われては…わたしも流石にムカッときて、エリスさんに言い返した。
「ご迷惑をおかけして申し訳ありません。でも、あなたには関係ないはずです」
「関係なら、大ありですわよ」
こんな真夜中でも完璧な美貌を保つエリスさんは、扇をこちらへ向けてわたしを指し示した。
「あなた、ご自身が王太子殿下にどれだけ特別扱いされていらっしゃるか、ご自覚が無いのかしら?」
「……特別扱い?」
はて?と首を捻ってしまう。確かに護衛を付けたり腕輪を着けられたりはしたけど……他に、何もされていなかったと思うけれど。
「……別に、何も無いと思いますけど…ううん、むしろ避けられているんではないですか?」
ここ半月、徹底的に王太子殿下の御姿を拝見していない。わたしが避けているというのもあるけど、以前なら普通に通ってた道さえ王太子殿下は避けるようになってきてた。
王太子宮で王太子殿下と偶然窓越しに目が合いそうになったときは、殿下は慌てて目を逸らされたくらいだもの。わたしはきっと、顔を見たくないほどに殿下に嫌われたんだ。
だから、よけいに気が重くなりどんどん落ち込んでしまって……堰を切ったようにどんどん嫌な気持ちが溢れてしまった。