王太子殿下と王宮女官リリィの恋愛事情
「ブルースピア準男爵令嬢のあたくしが!この美しいあたくしが!!こんな完璧なあたくしが!!!王太子殿下に拒まれるなど、あってはならないのですわ!!!!」
「そうですとも、お嬢様は完璧ですわ!その美貌も全ても」
「きっと、王太子殿下も夜の闇でよく見えなかっただけですとも!」
「次は明るい日差しの元でアピールしましょう!」
どこから出たのか、わらわらと侍女達がエリスさんの後ろで彼女を褒め称え、持ち上げる。…深夜2時過ぎなのに。いつ寝てるんだろう。
「おほほほほ!当然ですわ。あたくしはいつでも完璧ですわ!!」
「でも、王太子殿下にはフラれたのですよね?」
高笑いするエリスさんにサラさんの冷静な指摘が入り、彼女は固まった。
「……そ・う・な・の・で・す・わ〜!!」
エリスさんはつかつかとわたしへ歩み寄ると、両手を腰に当ててキッと睨みつけてきた。
「あたくしが王太子殿下にフラれるなど、あり得ないのですわ!貴女、殿下にそこまで言わせていることの重大さ、おわかりですの!?」
「……わかりません」
そんなの……きっと、王太子殿下はわたしを口実にして縁談を断りたいだけ。殿下の心にはまだ……“彼女”がいて……わたしはちょっぴりとも居ないに決まってる。
「……何もない、価値なんてないわたしが……殿下の中にいるはずありません!きっと殿下はまだ好きな御方を忘れられずに……わたしの名前を出して誤魔化しているだけなんです!」
わたしがそう言った次の瞬間、頬に鋭い痛みが走った。
「……よく、その様なことをおっしゃいましたわね?」
手を振り上げたままのエリスさんは、本気で怒っていた。
「何もない?なら、それに負けたあたくしたちは?あなたはあたくしたちが何でも持っているとおっしゃいましたが、持っている分の重さはおわかりになりますの!?」