王太子殿下と王宮女官リリィの恋愛事情
「ね、マルラ。わたし…王太子殿下のおそばにいたいの。だから、担当を戻してもらうね」
わたしがそう言うと、マルラはしばらくきょとんとしてから、また息苦しいほど抱きしめてきた。
「よかった!やっと素直に認めたんだね…リリィ。大丈夫、きっと殿下はリリィを受け入れてくださるよ」
「うん…ありがとう」
一緒に喜んでくれる親友がいる…わたしも幸せだったんだと感じながら、マルラを抱きしめる。
けど、そんなことをしている間に時間は過ぎていく。時計を見た瞬間、飛び上がるくらい驚いた。
「わあ、もうこんな時間!ま、マルラ。簡単なヘアアレンジ教えてくれる!?」
「もう、時間がないわ!もっと早く言ってよ〜。仕方ない。今日はあたしがやってあげるから座って!」
予定では自分でもできるヘアアレンジを教えてもらい、練習しながら肌のお手入れやメイクも教えてもらうはずだったのに。
落ち込んで呟いていると、マルラはクスクス笑いながら言った。
「そんないっぺんになんて無理よ。女の子の道は厳しいの。まず、短時間でなんとかしようってのがダメ。基礎や基本からじっくり覚えなきゃ」
「き、基礎なんてあるの……?」
「勉強だってそうでしょ?基礎ができて応用がきく。女子道もそうよ」
「じょ、女子道……」
初めて耳にした言葉だけど、なんだか奥深そうだ。
「そう。でも、気負わなくていいの。好きな人にはかわいく見せたい…それが原点になる。どうすれば自分が一番可愛く見えるか…楽しみながら見つければいいのよ。リリィらしい可愛さを、ね」
鏡越しにウインクしたマルラは、「はい、できたわ」と手を離した。
「わ…すごい」
肩まで届いたボサボサの髪の毛は編込みされ、しっかり纏まってる。しかもあちこちにガラス玉が輝くピンで留められていた。
「あ、ありがとう…すごくステキでびっくりした」
「どういたしまして。マルラ様の自信作よ!かわいくなったから、自信持って殿下にお会いしなさいよ」
最後にこれだけつけて、と色付きリップを唇に塗られ、恥ずかしいけどこそばゆい気持ちだった。