王太子殿下と王宮女官リリィの恋愛事情
朝のミーティングで女官長に配置換えを頼んだけど、急な話ですぐ対応できないと言われた。
(仕方ない…わたしのわがままなのだし、振り回してばかりだもの)
「なによ、あの子。自分から蹴っておいてまた王太子殿下のおそばに…って。図々しいんじゃない?」
「きっとアリス様の出現で焦ったのよ。今まで自分が一番と自惚れてたのに、アリス様が王太子殿下のご寵愛をいただきそうだから」
「ほんと、恥知らずよね。私にはとても真似できないわ」
クスクスと笑われ、陰口を言われるのも仕方ない。彼女達の言うとおりなんだから。
きっと心の奥底では、自分が殿下の一番と自惚れる気持ちが欠片でもあった。そのくせ何の行動もせず泣くだけ……そのために、どれだけ周りを振り回して傷つけてきたんだろう。
でも、もう。べそべそ泣くだけはやめだ。
わたしは、北の寒村出身のリリィ・ファール。何も持ってないけど、無いなら作る。身につける。手につかむ。
どうして忘れていたんだろう。故郷ではそれが当たり前だったのに。
わたしは陰口を言っている女官たちに向かうと、にっこり笑って挨拶をした。
「あいにく無作法な田舎者で申し訳ありません。ですが、わたしも殿下のおそばにいたいのです。ですから…負けたくありません」
「ま…な、何よその態度!」
「開き直ったというわけ?都合のよろしいこと!田舎者の厚かましさには敵いませんわ」
わいわい言われても、もういちいち気にしない。ちょっと傷ついたりはするけど…彼女たちだって傷ついてる。同じ人間だから。