王太子殿下と王宮女官リリィの恋愛事情
「孤児院はなかったの?」
「あったよ。だけど、うちの村は孤児が多すぎて…あたしより小さいのに身寄りがない子が多かったから、あたしはやめたの。村のみんなのお手伝いしながら楽しく暮らせたし、悪くなかったよ」
へへ、と笑いながら話すマルラは、苦労なんて微塵も感じさせない明るさがあって。
なんて強いんだろう、と思わず抱きしめてた。
「ちょっと、リリィ…苦しいよ」
「ごめんね…あのね、わたしも孤児なんだ」
「そうなんだ?やっぱり親は病気とかで?」
マルラの問いかけに、わたしは首を横に振った。
「わたしは…親の顔は知らない。生まれたばかりのわたしは…この村の隅に捨てられていたから」
「え…」
「まだ寒い雪が降り積もった朝に、たまたま通りがかった人たちが助けてくれて…
あと少し遅かったら、危なかったらしいの。村でもさらに貧しい身寄りがないおばあちゃんが世話を引き受けてくれて…3つになるまで一緒に暮したよ。けど、寿命で亡くなって…誰も余裕がなくて、わたしを引き受ける人なんていなかった。わたしは…外で必死に生き延びた。木の皮や草の根…虫…なんでも食べたよ。でも、そのうち病気になって…たぶん、流行り病だったと思う。
さらにわたしには誰も近づかなくなってた…死ぬのかな、と思った時…たまたまできたばかりの孤児院の人が見つけてくれて…あたたかい部屋で寝かせてもらえて、治療も受けられたんだ。
おかげで助かったし、孤児院で暮らせた上に勉強も教えてもらえて…世界が広がった。
王太子殿下がこの政策をして下さった…と知った時には、絶対恩返しがしたいと思ったの。すべてをお返しするのは無理でも、殿下のために役立つことができたら…そのために一生懸命勉強して、登用試験を受けたんだ」