王太子殿下と王宮女官リリィの恋愛事情


「よいしょ…っと、ふう」

ひとまず今日はいつもの仕事をこなす。
どんな作業だって大切な仕事だから、手を抜かず一生懸命に取り組んだ。

厩舎の手伝いが必要だと聞いて、馬のお世話に駆り出された。フレークルート村ではあまり馬はいなかったけど、推薦状を書く代わりに村長の家でこき使われた時に覚えた。

ボロ拾いに寝わらを変える仕事。放牧された馬のお手入れ。飼い葉を与えて、水をあげて…。脚の具合が悪い子は引き運動。
訓練から戻ってきた馬は馬装を解いてクールダウンさせた後に体を洗い、蹄(ひずめ)の汚れを専用の道具で掻き出す。

「あんた、ずいぶん慣れてるなぁ。うちで働かないか?」

厩舎の馬丁(ばてい)さんに誘われてしまって、苦笑いをした。そりゃあ、嫌でも覚えるしかなかったよ。半年間毎日毎日1人でお世話をしてたから。

「もし失業したらお願いするかもしれません」
「ぜひ、来なよ!気難しい馬もずいぶんあんたには気を許してるからね。ほら、その白馬。ホワイティっていう王太子殿下の愛馬なんだけど。気難しい上に気まぐれ屋で、いつも手入れには苦労してたけど。あんたのおかげで無事に済んだんだ」

(ホワイティ…うん、知ってる。乗せてもらったことがあるから)

ホワイティの首を軽く叩くと、ブルル、と鳴いてくれる。

「ホワイティ、わたしのこと憶えてた?嬉しいな」

あの、夢のような日。あなたの背中で王太子殿下の全てを感じて……そして。自分の想いに気付いた。

けど、叶うはずがないと無理に抑えて……諦めようとしたんだ。

「大丈夫…今度は諦めない。殿下が大切な人を決めるまで……努力するよ」
「ブルル」

まるで、“頑張れ”と言ってくれたような気がして。「ありがとう」と、ホワイティににんじんをあげた。


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