王太子殿下と王宮女官リリィの恋愛事情
けど、意外なことに厩舎の近くに王太子殿下が現れた。
「殿下が遠乗りをされるそうだ。馬場まで馬を引いてきてくれ」
侍従の一人がそう伝えてきて、ドキッと胸が高鳴る。
「あーホワイティをか…あんた、悪いが連れていってくれないか?もう一人つけるからさ」
「は、はい」
2人引きの方が確かに馬が落ち着くし、咄嗟の対処がしやすい。
わたしがメインである左側で、体格のいい助手さんが右側で手綱を取った。馬を扱うときは左手の方が落ち着きやすい
(王太子殿下にお会いできる…)
偶然とはいえ、思わぬ幸運だ。何か話せるかな?何を、どう言おう……ドキドキとソワソワが一緒になった私の胸は騒がしい。
やがて見えてきた王太子殿下の御姿に、涙が滲むのを感じた。
(やっと…やっと会えた。まず、挨拶をして…)
木陰の向こうに見えた王太子殿下は、やっぱり神々しいほどにお美しく凛々しい。ひと目見ただけで、かぁっと顔が熱くなった。
一歩、一歩が遅く遠くて、もどかしい気持ちを抱えていると、こちらに気付いたのか王太子殿下が顔を上げて…確かにわたしを見た。
ブルーグリーンの懐かしい瞳に映された瞬間、全身が熱くなって雲を踏んでるようにふわふわな気持ちになって。
「あ、あのっ……」
けど……。
王太子殿下は一瞬目を見開いた後、そのまま視線を逸らされた。耳を赤くしながら。
「……!」
そして、見えてきた。
メイフュ王太子殿下の隣には、アリス公爵令嬢がいらして。殿下は耳を赤くしながら彼女に微笑みかけたこと。そして、アリス様をわたしと同じようにホワイティに乗せたこと。
白馬に乗ったお二人は、まるで物語に出てくるような美男美女のお似合いカップルで……。
気のせいか、甘い薫りまで漂ってくるようだ。
(やっぱりアリス様を…ううん、わからない。殿下が正式に発表されるまで諦めちゃダメ)
そうは思うけど。やっぱり誰が見ても相応しいお二人だ。
胸がズキズキと痛むのは、どうしようもなかった。