王太子殿下と王宮女官リリィの恋愛事情
諦めない
あれからさらに半月が経って、4月も終わり。
わたしの配置換えの申請は結局通らなかった。
女官長には言葉を濁されたけど…一番の原因は、王太子殿下のご意思だろう。
(仕方ないよね…気分で担当をころころ変えていたら、信用されないのも当り前だ)
「リリィ、今日はうまくいったね」
「うん、マルラのおかげだよ。ありがとう」
半月前からマルラの指導のもと、自分磨きを始めた。
まずは日焼け止めを作って常に塗っておいて、朝晩は必ず肌のお手入れ。髪の毛も地肌から手入れをして、ボサボサ頭をカットし伸ばした髪を手早く纏める練習をする。
髪型なんて今まで気にもとめなかったけど、同じように結い上げるにしても様々なバリエーションがあって驚いた。しかも、ちょっと変えただけで印象ががらっと変わるから奥深い。
お化粧は…化粧品自体が高価だから、お古をもらって練習してる。白粉や口紅くらいはほしいけど、宿舎の売店で売られている品は王族貴族御用達だから、庶民にはとても手が出せません。口紅ひとつでお給金2ヶ月分が飛んでいくんだから、とてもムリ。
あとは服や下着も気をつけなさい!と言われたから、お給金を貯めて買おうか計画中。持ち物もこだわった方がいいみたいだけど、それは当分先になりそう。
初めて出たお給金は半分以上故郷に送った。少しでも孤児院やからす亭の役に立ってほしいから。
そして、残りで身の回り品やマルラが言ってたものを揃える。アクセサリーも持ちなさい!と言われたけれど。それよりも欲しかった本を買ったら、マルラに呆れられた。
「あのヘアピン似合って可愛かったのに!リリィってば、本に使っちゃうんだもの」
「ごめん、ごめん。だけど…なんか、王太子殿下が…ね」
あの日以来、王太子殿下はわたしを見ると目を逸らしたり、困ったお顔をされ足早にその場を去る。
もしかしたら、気持ち悪いストーカーとでも思われてる?
“一度お情けで抱いた女が勘違いして追いかけてきてる”……って。