王太子殿下と王宮女官リリィの恋愛事情
悪意…
“闇”を操る悪意のあるひとが、王宮に?
「そ、それじゃあもしかして…王宮で何か起きるんでしょうか?」
「いえ、このワラの呪いはずいぶん薄まってますから、厩舎のスタッフではなくおそらく外部から持ち込まれたものと推測されます。しかし、問題は馬を狙った意図です。一体何の目的があって、厩舎の馬を…」
サラさんにハッキリ否定され、厩舎の知り合いが犯人でないことにホッと胸を撫で下ろしたけど。なんだか心配ごとが増えたかもしれない。
ケガはともかく、病気の馬はサラさんが浄化したら途端に元気になった。
わたしはお願いをして、サラさんに浄化の方法を簡単に教えてもらう。いざと言う時に何かしら役立てればと思って。
「視覚に頼らず、心で視るのです。視たいものをイメージして…呼吸を整え、精神を集中して」
「はい」
サラさんの指導はすごいわかりやすくて、わたしでもなんとなく“闇”のイメージを掴めた。そこで判明したのが、わたしにも微量ではあっても魔力がある…ということ。
サラさんの指導のお陰か、仔馬1頭の浄化までこなすことができた。
「前から思ってたんですけど、サラさんってすごいですね。武人であり魔術師で、美人で貴族令嬢。完璧じゃないですか」
「……自分で得たものでない場合、逆に恥ずかしいのですけどね」
苦笑いしたサラさんからは、意外な話を聞かされた。
「一応、これでも伯爵家長女なんですよ。でも、幼い頃からとにかく剣や武術が好きで…婚約者でもいれば少しはおとなしくなるか、とキリと婚約させられましたが。結婚直前の15で髪を断ち切り、実家と別れを告げて士官学校に入りました。もちろん、婚約破棄をして。実家は妹が婿を取って継ぎましたけどね」
それ以来剣の道一筋ですよ、とさっぱりした顔で笑ったけど。今までの努力…自分の手で掴み取った分だけ、誇りを感じさせるものだった。
「リリィ様はこれからですよ。何があろうとも、ご自身の信じる道を歩くのです。まだお若いのですから、後悔なさらないようになさってくださいね」
「はい……」
今まで、サラさんはひたすら“王太子殿下をお信じください”と言ってくれていた。どれだけわたしが疑心暗鬼になっていても、彼女はブレずにいて。わたしは彼女に憧れずにいられない。