王太子殿下と王宮女官リリィの恋愛事情


ところが、唐突に浄化で大人しくなったはずの馬が暴れ始め、厩舎の壁を蹴り壊すほど荒ぶった。

「ヴヒヒヒヒーン!!」
「ヴォルルル!!」
「こ、こら!大人しくしろ!うわっ」

厩舎のスタッフが慌てて宥めたり抑えようとしてもムダで、どの馬も一様に目が血走り口から泡を吐いて興奮してる。

たかだか数人のスタッフで、50頭もの暴れ馬を抑えられるはずがない。
しかも馬たちは四方八方のてんでバラバラな方向へ散ってしまい、柵を蹴り壊したり飛び越えたりして王宮の敷地へ乱入していった。

「た、大変…捕まえなきゃ!」

わたしも一番近い馬を捕獲しようと、道具を取りに厩舎に急いだ次の瞬間。
突然立ち上がった馬が、わたしに向かって前肢を振り下ろしてきた。


「リリィ様!」

サラさんの声がすぐ間近に聞こえて、視界いっぱいに彼女の金髪が広がる。
背中に草の柔らかさを感じたと同時に、お腹に衝撃を感じた。
…サラさん越しに。

2度、3度。
確実に、サラさんは馬の蹄に踏まれた。

「サラさん!!」
「おい、大丈夫か!?」

すぐ近くにいたカインさんが駆けつけてくれ、部下とともにわたしたちを助けてくれた。

カインさんが素早く他の部隊に連絡を入れてくれたお陰で、暴れ馬の捕獲は比較的スムーズに完了した。

だけど…

わたしを守って何度も馬に踏まれたサラさんは、意識不明の重体になった。

「サラさん…!お願い、目を開けて!!」

サラさんはすぐさま病院に収容され、治療を受けたけど。
数日経っても、意識は戻らなかった。


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