王太子殿下と王宮女官リリィの恋愛事情

不甲斐ない自分が、嫌だった。
いつも何をしても無力で…

(わたしに…力があればいいのに!サラさんを助ける力が…)

待合室で一晩中サラさんの無事を祈り続けていた時、ふと嫌な気配を感じた。

(……これは?)

周りを見渡しても見知った人ばかりで、サラさんを純粋に心配する様子はその持ち主とは程遠い。

(呼吸を整えて…精神を集中…視覚に頼らず視たいものをイメージする…)

深呼吸しながら目を瞑り、厩舎でサラさんに教わった方法で気配の場所を探る。

ぼんやりと浮かび上がるのは、温かい光やまばゆい光…鈍い光…様々な光を感じたその中で、のたうち蠢く“闇”を見つけた。

そして、その“闇”が憑いていたのは。

「……サラさん!?」

まさか、と思った。でも…。

うっすら輝くサラさんの光のなかで、ゆっくりだけど確実にどす黒いものが広がり侵食していってる。

きっとそれに完全に喰われた時、サラさんに待っているのは…!

「いけない…サラさん!!」

わたしは居ても立っても居られず、すぐに病室に飛び込んだ。

「君、なんだね!?治療の邪魔だから出ていきなさい!」
当然お医者様達には押し出されそうになった。だけど、ことは一刻を争う。

使いたくなかったけど、わたしはやむなく左手にある王太子殿下の腕輪を示した。

「わたしは、リリィ・ファール。殿下の寵をいただいた者です。これが約束の証。この者はわたしの部下で、わたしはこの者を救う義務があります。“闇”に囚われかけたこの者を、浄化します」
「…なんですと?“闇”…どうりで治療がことごとく効かなかったわけですか」

この医師でさえ、わたしが名乗れば王太子殿下のことを知っていた。話が早いから助かるけど…複雑な気分。

「では、浄化にかかります」

時間との戦いが、始まった。

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