王太子殿下と王宮女官リリィの恋愛事情
サラさんが“闇”に憑かれたのは、間違いなく暴走した馬に踏まれた時。
きっとあの暴走の狙いはわたしだったんだろう。サラさんは巻き込まれただけだ。
厩舎でサラさんから学んだことを繰り返し繰り返し思い出し、“闇”をわずかずつでも浄化する。
(光を導き…闇を消し去る…)
浄化とは言っても、わたしの魔力はごくわずかだ。力が強ければ一度で消しされるけど、わたしのように弱い時は本来魂が持つ力を借りる。病気に対して体が抗体を作るように、魂が本来の形に戻ろうとするのを助け、“闇”を追い出しながら消していく。
元々わたしの身体には“闇”が憑いている。
だから、性質を理解するのは簡単だった。
時折、サラさんの“闇”にわたしの中のそれが引っ張られ、発作が起きたりしたけど。決して負けるもんか!と、薬で発作を無理に抑えながら戦い続けた。
何度も何度も、“闇”が盛り返してサラさんの魂を蝕もうとする。
よくなったと思えば、また悪くなって……一進一退の攻防はいつまで続いただろう。
「諦めない…絶対、諦めるもんか!!」
いくら休めと勧められても、わたしは三日三晩水代わりに薬を飲み、寝食を忘れて浄化を続けた。
「……リリィ様?」
事故に遭って5日目の朝にサラさんは意識を取り戻し、わたしを呼んでくれて……
「……よかっ…た…」
嗄れた声で呟いたわたしは、そのまま意識を失った。