王太子殿下と王宮女官リリィの恋愛事情
グスッと鼻をすすったマルラに、息苦しいほど抱きしめられた。
「そうなんだ…苦労したんだねリリィ、よしよし」
「マルラちゃわ〜ん!ボクも抱きしめてぇ…!!…げぶ」
気のせいか、カインさんの顔面にトレイ飛んでなかった?カインさん床に転がってるし…
一撃で近衛兵を倒すトレイって…。
「うんうん、一緒に頑張ろうね。夢を叶えよう!」
「そうだね…頑張ろう」
マルラとともに、必ず夢を達成すると誓いあった。その時は何か起きるか知らないままに。
翌朝、護衛つきの馬車でファール孤児院を訪れた。わたしは4年前までここで暮し、それ以降はクレア姉さんのからす亭で住み込みで働いてた。
この国では12歳から働けるから、孤児院にいるのはそれまでの子ども。わたしが出た時には、遥かに小さな子どもばかりだった。
「リリィ、出仕おめでとう」
「院長先生…ありがとうございます。みんな皆さんのおかげです」
13年前にわたしを引き受けて下さった院長先生も、もうすっかり白髪のおばあちゃんになった。けど、シワだらけでも温かな手は忘れない。流行り病で死にかけたわたしを、恐れずに抱きしめてくれた唯一のひと。
王太子殿下への恩返しが終わったら、孤児院に戻って院長先生を手伝いたい。わたしのような捨てられた子どもを救いたい…院長先生のように、素敵な女性になりたい。わたしのささやかな、大切な目標だった。