王太子殿下と王宮女官リリィの恋愛事情
悪夢は、やがて優しいものに変わった。
わたしと、居ないはずの家族がいて…みんなが笑っている。幸せだけど…優しくて…悲しい夢……。
「…………」
ゆっくりと目を開けると、蝋燭のオレンジ色の炎が目についた。
だるい感じはあるけど、なんとか身体は動かせる。
「……わたし、無事……だったんだ」
ぽつりとつぶやくと、意外な声が隣から聴こえた。
「……全くだ。おまえは、無茶しすぎだろう!」
「え……」
信じられない思いだった。
だって…だって。彼は……わたしを嫌って……アリス様と婚約するはずで。
混乱しながら視線を動かすと、彼は…メイフュ王太子殿下は、わたしに顔を近づけて覗き込んできた。
「なぜ、オレに一番に報告しない!?おまえの手に負えるものではなかっただろう?」
なぜだろう?
どうして、王太子殿下は怒っているの?
「……殿下は、わたしを嫌っていたのではないですか?」
「……オレが?」
心外だ、と言わんばかりの顔をするから、思いつく限りの事実を挙げてみせた。
「……わたしの配置換えを許可しませんでした」
「……それは、確かにそうだが」
困惑した殿下は、忘れてらっしゃるらしい。悔しくなって、事細かく喋って差し上げる。
「わたしが話しかけても、無視されましたよね」
「……」
「顔を合わせた途端、困った顔で目を逸らしたり、踵を返したり、終いにはいつも使っていらした道を通らなくなられましたよね?いくらわたしが馬鹿でも、避けられているとわかりますよ?」
そして、言いたくなかった事実を告げた。
「……アリス様と、ずいぶん仲睦まじく遠乗りを……お互いに頬を染めて……ご婚約、おめでとうございます。ご婚約が決まったなら…もう、わたしに構わないでください!!」