王太子殿下と王宮女官リリィの恋愛事情
「公爵令嬢のアリスとは、何もない。ただ、北の国境がきな臭くなっていたからな。レッドラン公爵の手前、あくまで賓客として接していただけだ」
「遠乗りの時、嬉しそうに赤くなってましたが…」
わたしが疑惑のもとを告げると、「…それは」と殿下は動揺した声を出し、しばらく沈黙された。
(やっぱり…アリス様の方が…?)
わたしが俯いた時に、焦った声で王太子殿下は言葉を重ねた。
「あの時…アリスではなく、リリィ。おまえが相手ならよかったと考えて…本当に会えたから、思わず動揺していた」
「……わたしが?」
「会えて嬉しくて…顔が緩んだだらしない顔を見られたくなかった。顔が赤くなったのも……おまえに会えたからだ。他の女に笑いかけるくらいなら、誰とも口を聞かないほうがマシだ」
いつの間にか王太子殿下はわたしの身体をベッドに倒し、その上に覆いかぶさってくる。
「……オレは言ったはずだ。どんな女も拒む、と。おまえはオレを疑っていたのか?」
「だ……だって……わたしは何もない……殿下のお役に立てるものは……だから…っ」
また、唇をキスで塞がれた。
「だから、なんだ?」と王太子殿下はわたしにおっしゃる。
「あいにく、オレが見るのは生まれや容姿ではなく、どう生きてきたか、だ。
立場や身分血筋に胡座をかき、大した努力もせず搾取するだけ…なにかしてもらえても当たり前とふんぞり返り、悪いことや迷惑をかけても過ちを認め謝罪もできない…そんな連中が当たり前過ぎる、この宮中ではな。
腐った果物を入れてもますます周りが腐るだけだ。
父上にとっての母上のように…オレは、自らの目で選ぶ。それだけだ」