王太子殿下と王宮女官リリィの恋愛事情
侍女の噂話や王太子殿下のお話にあった通りに、フィアーナ王国と接する北の国境で最近不穏な動きがある、と度々耳にするようになった。
「あんたは気にせず休め。勝手に動き回ったらこっちが怒られる」
サラさんに代わってわたしの護衛にはカインさんが就いた。気のせいか、以前よりずいぶん柔らかい態度になってる。
「カインさん、リリィはもう殿下の婚約者同然なんですよ?不遜な態度は慎んでくださいね」
目をつり上げてマルラが言うと、カインさんは突然ベッドの前で膝をついて頭を下げた。
「……部下のサラを救って下さっだ勇気あるお方に、とんでもなく無礼な態度を取り続けてしまいました。申し訳ありません」
「い、いえ…」
「オレが脅し混じりで斬っても、あんたは誤魔化してくれた…傷を証拠に王太子殿下に訴える事もできたのに。あの時、咄嗟にオレの立場を考えてくれたんだろ?そんな思い遣りある相手に、オレは子どもじみた意地を張って…心底、自分が情けない」
カインさんが自ら明かした事実に、マルラはますます目をつり上げた。
「カインさん、そんなことをリリィにしていたんですか!?リリィだってあたしと同じ、まだ16歳のか弱い女の子なんですよ?」
「わかってる……だから、なおのこと恥ずかしい。あんたを見た瞬間、あまりにあの方に似ていて…一瞬で殿下が惹かれると確信したから、ついつい行かせないと焦ってしまったんだ」
“あの方”ーー?
カインさんが思わせぶりな事を言ったことで、ついつい訊かざるを得なかった。
「あの…カインさん。ひとつ訊いてもいいですか?」
「なんだ?オレが知ってることなら何でも答えよう」
きっと、カインさんは直接知ってる。わたしを初めて見た時の反応と、今の言葉で確信した。
心臓が、バクバクする。嫌な予感で胸がざわめいた。
やめて、知らない方がいい。そう思うのに……どうしても知りたかった。
「王太子殿下の……お好きな方は…どういった方なんですか?わたしにそんなに似ていますか?」