王太子殿下と王宮女官リリィの恋愛事情
「……それは…」
やはりカインさんも答え難いのか、躊躇する様子を見せた。
「……やっぱり答えられませんか?」
「そうよ!知ってるなら答えるって言ったでしょ?」
わたしに加えてマルラまで加勢してきたからか、大きくため息をついたカインさんはやむなく立ち上がった。
「……本来なら、あまり勝手なことをしたくはないんだがな」
さすが王太子殿下の幼なじみだからか、カインさんは勝手知ったる様子で棚の引き出しを漁る。
そして、額に入ったものを手に戻ってきた。
「これは、プスムラム国の写真機というもので写された人物像だ…シャシンというものらしい」
「えっ…シャシン?初めて聞くけど…え、すごい!ずいぶんリアルな像ね」
マルラが興味深そうに覗き込んだ画は、確かに絵としてはかなり精巧なもので。一人ひとりの姿がかなり詳しく写されていた。
「殿下がウゴスに滞在された際の記念写真だそうだ。10年前……あの厄災が起きる前に撮影されたそうだ」
「厄災……サラさんに聞きました。“闇”の呪いが世界中に広がった事件ですね」
わたしの言葉に、カインさんは頷いた。
「オレも当時、ノイ王国からウゴスに急遽派遣されたんだ。士官学校入りたてのガキだったが…王太子殿下を護れ、と。殿下は王宮を出奔されてらしたからな」
(あ、それって…)
コウ王后陛下がおっしゃってた…“妹が生まれヤキモチを焼いて家出をした”というエピソードの?
ちょっとだけ微笑ましくなったけど。カインさんの話は想像以上のものだった。
「この記念写真にはかなり有力者が写っているな。このお方が現フィアーナ王国女王、ファニイ陛下。その隣がファニイ陛下の夫であるロゼフィン王配殿下。こちらがウゴスタダ大公国皇帝オレチナ陛下。こちらは王太子殿下…こちらは当時の皇帝陛下。この方はプスムラムの現首相…」
錚々たる顔ぶれに絶句していると、カインさんの指がひとりの女性を指した。
「そして…この方が…御上(みかみ)と結婚された御方…クママル様。メイフュ王太子殿下の初恋のお方だ」