王太子殿下と王宮女官リリィの恋愛事情
「えっ…これって…」
マルラが絶句したのも仕方ない。
だって、その方は…クママル様は…。
わたしとそっくりだったから。
違いは髪の長さと、顎の微妙なラインと、目の大きさ。彼女の方がぱっちりした目をしている。
そばかすや赤茶けた髪の色と日に焼けた肌…確かに、よく知らなければ彼女と見間違えるだろう。
「瓜二つとは言わないが、あんたそっくりだろう?だから、ヤバいと思った。雰囲気やまとう空気も同じだったし…自己犠牲で他人を救う優しさも似てる…そして」
「ミャア」
いつの間にかシロロルがわたしの膝に乗り、ゴロゴロと喉を鳴らす。無意識に撫でていると、カインさんはシロロルを見て目を細めた。
「シロロルが懐いた数少ないお方……だから、懸念があった。あんたはあまりにクママル様に何もかも似ている…王太子殿下がクママル様の身代わりに執着されないか…と。
殿下は彼女に告げられる前に、唐突に御上に奪われた…彼女に憑いた“闇”が原因でな」
「…えっ…“闇”が…原因…クママル様にも“闇”が憑いていたんですか?」
あまりに思い当たる節があることに、心臓が嫌な音を立てる。聞きたくないのに、聞きたくてたまらない。
「……そう。ウゴスであった“闇”の呪いの発動。世界中を覆い尽くしたそれを浄化されたのが、クママル様。だが、その時に強大な“闇”を身に宿され…それは御上の手により浄化されたが、それをきっかけにクママル様はご懐妊され…御上様とご結婚を」
「……」
ショックで、言葉にならなかった。
“闇”を身に宿し…浄化をする必要があった…
まるっきり、“わたし”……。
そして、身を削り“闇”を浄化して…。
あまりといえばあまりにも、わたしはクママル様に酷似していた。
だから……
王太子殿下は、わたしに執着されたの?
クママル様の、身代わりとして。