王太子殿下と王宮女官リリィの恋愛事情
「リリィ姉ちゃん!」
院長室から出ると、何人かの顔なじみの子どもたちに囲まれた。
「村から出るって、本当?」
「…そうだよ。今日、出発するの」
隠しても仕方ないから素直に認めると、8歳年下のキャンディが大粒の涙を流ししゃくり上げた。
「そんなの…イヤだよ!もっともっとリリィお姉ちゃんと遊びたいもん!お話したいもん!!」
「ぼ、ボクだって…ひみつ基地作るやくそくしてるんだ、だ、ダメだよ!まだかんせいしてないじゃん!」
「お姉ちゃんが転んだり、変な顔するので笑えなくなるのヤダ!!」
わんわんと小さな子どもたちが泣くのはつらい…一部、余計な事を言われた気がしたけどね。
「あらあら、リリィは相変わらず人気者ね」
院長先生がにこやかに言い、その場でしゃがんで1人1人の涙を拭いてあげた。
「キャンディ、トム、マロン…リリィお姉ちゃんとしっかりお別れをしなさい。決してあなたたちと会えなくなるわけじゃないわ。ほんのしばらくのお別れよ」
「ほ…ほんと?」
しゃくり上げながら訊いてくるキャンディに、うん、と頷いた。
「ほら、これ…わたしと思って持ってて」
ポケットから出したのは、布で作った人形。せめてわたしの代わりに、とみんなの分をせっせと縫って作ったんだ。
「ぷっ…この膨れっ面…リリィ姉ちゃんそっくり」
「足が短いのも似てるね!」
「鼻が低いのも胸がないのも…」
みんなが笑ってくれたのはいいけど…笑う意味が違う…。
「こら、誰が膨れっ面よ!あと、わたしの足は短くなあい!!鼻と胸はこれから高くなるんだからあ!」
「きゃあ、リリィ姉ちゃんが怒ったあ」
「怖いぞ、逃げろお」
きゃあきゃあ言いながら子どもたちが逃げて、わたしは追いかけて捕まえる前に。院長先生に「リリィ、いい年してなんですかみっともない!」とこってり怒られたけど。
何だか懐かしくて、これからこの声が聞けなくなるな…と、ちょっとだけ切なくなった。