王太子殿下と王宮女官リリィの恋愛事情
身代わり……
真実を聞けば聞くほど、その言葉がぴったりだった。
「……わたしは…殿下にとって……クママル様の身代わり…だったの?」
思わず零した本音に、カインさんは違う!と強く言った。
「確かに、オレは懸念してはいた。だが、殿下はちゃんとあんたを見てらっしゃる。すぐに切り離すのは難しいかもしれないが、自分は自分と思え。
もしそれが嫌なら、クママル様とは違うと言える“これ”と言える自分を持つしかない。自信が持てるよう努力をするんだ」
「そうだよ、リリィ。相手がもう結婚して子どもがいるなら、殿下だって諦めてるはずだよ。こっちのものだって!ガンガンアピールして振り向かせるくらいしなきゃ。女は根性だからね」
カインさんもマルラも、このままじゃいけない、と言ってくれる。それは確かにそうなのだけど……。
あまりのショックでその日は何も考えられず、食欲も無くなって横になってばかりだった。
ウトウトと微睡んでいると、微かな音が聞こえて目を覚ました。
「……悪い、起こしたか?」
「…殿下?」
メイフュ王太子殿下がばつが悪そうにテーブルから離れ、わたしの額に手を当てると小さく息を着いた。
「……熱は下がったな」
「あの、ご公務は……」
「途中で抜け出してきたからな。今頃ヴルグがカンカンだろう」
悪びれもせずにシレッと言った王太子殿下は、テーブルからグラスを持ってきてわたしへ差し出した。
「食欲がないと聞いた。これなら飲めるか?」
「あ…りがとうございます…」
グラスの中身はクリーム色で、なんだかどろどろしている。恐る恐る口にしてみて、その美味しさに驚いた。
程よい甘さと酸っぱさが、コクのある喉越しと調和してる。これならいくらでも飲めそう。
「…美味しい」
「よかった、飲めそうだな。いくらでも作ってやるから、遠慮なくリクエストしてくれ」
殿下に微笑まれて、顔が熱くなっていくのを止められない。