王太子殿下と王宮女官リリィの恋愛事情

王太子殿下は国王陛下からご裁可を頂き、グレイボーン州への遠征を敢行された。

わたしも同行するためになるべく体調を整えておいたけど。出発の前に、意外な方々がお見送りにきてくれた。

「……いいですこと?あたくしをはじめとした女官の代表として申し上げますが、殿下をあの女に渡すことは許しませんからね!」

エリスさんとは深夜のケンカ(?)以来気まずかったけど。まさか、お見送りにきてくれるなんて思いもしなかった。

「が、頑張ります……」
「ふふ、責任重大ですね、リリィ様」
「サラさん……」

退院したサラさんは、キリさんが押す車いすに座ってる。彼女は後遺症が残ったため、軍務から退く決断をした。

「……ごめんなさい…わたしのために……」
「いいですよ、リリィ様。むしろ感謝したいくらいです。数年前から自分の限界を認めたくなくてみっともなくもがいてましたが……きっぱり辞めるチャンスをくださったのですから」

そして、サラさんは数冊のノートと小さな袋とペンダントをプレゼントしてくれた。

「……リリィ様がわたくしの“闇”を浄化して下さったお陰で、わたくしは新しい人生を歩めるのです。ありがとうございます…ですが、2度とこの様な無理はいけませんよ?
このノートとアイテムは、わたくしが魔術の研究に使っていたものです。このペンダントは“闇”や魔術への耐性を高めるもの。よかったらお役に立ててくださいね」
「ありがとうございます」

サラさんの想いが籠もったノートを、大切に胸に抱きしめた。

「わたくしは、キリとともに図書室にいます。また、お寄りになってくださいね」
「はい、ぜひ…」
「リリィ、お家に帰っちゃうの?」

次にこちらに抱きついてきたのは、イマ王女殿下とフィフス王子殿下。気のせいか、王子殿下は目に涙まで浮かべてた。

「いいえ、ちょっと寄ってくるだけですよ。また戻ってきます」
「絶対だよ!帰ってきたら、メイフュお兄様のお嫁さんになって!そしたら、リリィもわたしのお姉様になるから。絶対、絶対だからね!!」

イマ王女殿下の言葉には、黙って笑うだけに留めた。
王太子殿下のお嫁さん……

まだ、わたしにはその資格がない気がしたから。


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