王太子殿下と王宮女官リリィの恋愛事情


みんなに見送られ、王宮を出発。
来た時と同じように、馬車で2週間の旅になる。
グレイボーン州のフレークルート村は最北端の地だから、南端にある首都オレバとはかなり距離がある。おおよそ国を横断する上に、森林や山岳地帯もあるから容易な行程とはいかない。道は整備されてきてはいるけど、やっぱり人口が多い地方が優先になってしまう。

わたしの車には王太子殿下、マルラ、カインさんの3人が同乗していた。
出仕の時の馬車もかなりいい車だったけど、やはり王太子殿下が使われる車だけあって乗り心地が違う。初の馬車では初日から車酔いをしたけれど、今回はわりに平気だった。

ちなみに、公爵令嬢アリス様は特製馬車。狙われやすいから地味な馬車にしろ、と王太子殿下が意見したのに、周囲の侍女が余計なお世話です!と華やかで派手な紋章入りの車を使ったらしい…。
王太子殿下の車は一見地味で臣下が乗る車に偽装してあるけど。他にフェイクの馬車が何台かあるけれど、いざ襲われた時に分散させる偽装のためと、馬車が故障した時の予備らしい。

(……ふむふむ、術の基本はイメージ、か)

道中は基本時間があるから、サラさんに譲ってもらったノートで魔術の勉強をした。彼女独特の方法で研究されていて、すごくわかりやすく書かれてて助かる。

(見た目で惑わされない…水=冷たい液体だけでなく、お湯にも霧にも氷にもなる……)

確かに、水と言われたら普通は飲み水や川や海をイメージしてしまう。けれど、加わる力によって変化する。熱を加えればお湯に、そして霧の湯気に。冷やせば液体。凍らせれば固体の氷になっていく。

見た目や固定観念が、一番の障壁。術を発動する際、目を瞑るのは視覚に頼らない…邪魔されないため…か。

サラさんの指導を思い出しながら、馬車の中でイメージするためのトレーニングを繰り返した。



< 96 / 158 >

この作品をシェア

pagetop