王太子殿下と王宮女官リリィの恋愛事情
流石に車中泊という訳にはいかないから、道中で宿を取る手筈を整えてある。
通常なら近隣の領地の領主のお世話になるだろうけれど、王太子殿下はあえてその方法を避けた。領主の負担を減らすためと、あと一つで最大の理由が……。
「年頃の娘を持つ領主が多いから、さり気なく娘を勧めてくる…」
宿泊する部屋では、いかにも辟易した様子で王太子殿下が呟かれてた。
3日目の宿は地方のどこにでもありそうな平均的な規模で。よもや王太子殿下をお迎えするなんて思いもよらなかったんだろうな。マスターが揉み手でお出迎えしてたし。
けど一人娘を必死にPRしてきて、王太子殿下もうんざりしたみたい。
そして、さっきの発言になるわけで。
「そんなに令嬢は多いんですか?」
ざわめく胸を押さえながら訊いてみると、ベッドに身を投げ出した殿下は「ああ」と答えられた。
「下手すると上は母上とそう変わらない50近い者から下は妹より幼い10未満まで……とにかく独身ならば、と娘や縁者の娘を寝室に送り込もうとするからな。以前、とにかく周囲にいる独身女性なら誰でもいい!と寝室いっぱいに裸の女性が何十人もセッティングされていたこともある」
「そ、それは……なかなか強烈ですね」
王太子殿下が22まで妃を持たず縁談を断っていたなら、あわよくば娘や縁者を妃に…と希望を抱いてしまうんだろうな。
とは言っても、聞いてるわたしも心穏やかではいられない。
もしかしたら、王太子殿下はその中の1人でも気にいって一晩だけでも過ごしたことがあるのでは?……なんて。嫌な想像をしてしまう。
(馬鹿……何を勝手に嫉妬してるの!殿下が昔何をされていたって…わたしに責める資格なんてないの。それより、殿下のお役に立てるようしっかり学んでおかないと)
馬鹿な想像を振り切りたくて、魔術の勉強に集中しようと思ってたのに。
いきなり、王太子殿下にノートを奪われた。