王太子殿下と王宮女官リリィの恋愛事情
結局、グレイボーン州には予定より数日遅れで到着した。
王太子殿下はやけにお元気で、逆にわたしは疲労困憊のフラフラ……。なぜ、こうなるんだろう?途中でカインさんと仲がいい、と不機嫌になって1日乱暴に抱き潰された事もあったし。意味がわかんないよ。
故郷のフレークルート村は気になるけど、すぐには向かえない。領主である公爵邸に滞在するから、まずはそちらに入り挨拶する必要がある。
もちろん国境を護る砦等はあるけれど、そちらに向かうにしても公爵邸を拠点にするから同じこと。こちらの手勢は練度は高くても少数で、結局は公爵の力を借りる必要がある。
「これはこれは、王太子殿下。ご無沙汰しておりました。王都以来ですな」
レッドラン公爵は痩身で白髪の気の良さそうなおじさま、と言った雰囲気。着ている服も華美ではなく、むしろ庶民に近く質素なくらいだ。
娘に持たせた支度の派手で華やかなイメージとは程遠い。
元々土着の辺境伯から発展しているから、お屋敷も華美でなく質実剛健。砦から発達した建築物はグレーがかった石灰岩で出来ていて、フィアーナ王国の姫を迎える時に増築された別館だけ華やかでちぐはぐな印象を受けた。
そしてレッドラン公爵は愛娘のアリス様を迎えることなく、王太子殿下にべったりだ。
アリス様は馬車から降りる時も何もかも、侍女の手を借りている。一言も喋らないし、無表情でまるで人形みたいだ…なんて思ってしまう。
王宮で王太子殿下と遠乗した時とはまったく違う印象だ。
そして、アリス様からはやっぱり甘ったるい薫りがした。好みの香水なのかな?
公爵の正妻であるお姫様を迎える時に建てられた迎賓館で、王太子殿下は滞在される。
ただ、わたしは別の部屋を充てがわれた。
(ちょっと寂しいけど仕方ないし…それに、体を休めたいからよかった…)
マルラは憤ってたけど、わたしには好都合。近ごろは王太子殿下のお陰で魔術の勉強や訓練もできなかったし、少し一人の時間も欲しかった。