結果、恋をする。
昌悟さんの言った「冷凍人間」の意味を知らないまま、あたしは定期テストの結果が帰ってきた。


「終わった・・・・。」


廊下に張り出してあった成績表、その隣に小さい紙が貼ってあった。


「須藤いろは」


数人はいると思った追試報告。
見事にあたしの名前だけが書いてあった。
これでゴールデンウィークの予定は決まってしまった。

ー5月3日ー
季節はまだ春なのに、蝉が泣いてる。
教室は冷房があるけど、それまでの間が暑い。


「あーーーーっつーーーーー。」


教室に入って机に伏せる。


「涼しい・・・ここは天国・・・でも今から地獄・・・」


独り言を言ってしまうなんてあたしもいよいよやばい。
そんな事を考えていると廊下から怒鳴り声が聞こえた。


「なんでじゃ!!!!点は取れとったじゃろうが!!!」

「!!!!!!!」


はっと起き上がり廊下を見た。
金色の髪の毛が揺れていた。


「・・・・・・あ・・・。」


「じゃけぇ何度も説明しよるじゃろ。お前が遅刻早退欠席をくりかえすけぇ補修受けるように校長から言われとるんじゃ!」

「意味がわからん!!」

「わかるじゃろ!!!」

「わやじゃ!!!!!!!」


教室のドアが乱暴に開かれた。
そこにいたのは昌悟さんではなかった。
冷凍人間と言われていた、伊崎大悟だった。


「伊崎はそこの席に座れ。」
「命令すんな。」

そっけなく言葉を出した伊崎大悟。
あたしのあの雪の日の人という感は当たっていた。
キラキラ光る金髪、切れ長の目、すらっとした立ち姿。


「・・・・・・・・・。」


じっと伊崎大悟を見てしまう。あたしに補修の期間の話なんて入ってこない。


「・・・と言うことじゃけ、一週間の最終日に前強化のテストをする。それで平均以上とれんのなら夏休みはないと思え。」

「えぇ?!」


驚きすぎて大きな声を出してしまった。


「・・・・・・・・・。」


伊崎大悟も机に肘をつき、あたしを見ている。


「・・・えっと・・・夏休みもですか・・・?」

「じゃけ話したじゃろ。今度の追試もダメだったらじゃ。」

「・・・追試の合格点は・・・?」

「全教科50点以上じゃ。」

「半分ですか?!」


また驚き声をはりあげた。50点以上とるには30点以上取らなきゃいけない。←もとが20点代。


「ほなら今からわしは部活見にいかにゃじゃけ、2人で自習しよってくれ。」


先生が教室を出て行く。伊崎大悟は教科書をパラパラ開いている。
まずい。非常にまずい・・・・。
あたしはおそるおそる伊崎大悟に声をかける。


「伊崎くん・・・。」


教科書を見ていた伊崎大悟があたしをちらっと見る。


「何?」

「5教科で・・・何点だったの・・・?」

「・・・・・・・。」


あたしを見ていた伊崎大悟がまた教科書へ目を戻す。
少しの間沈黙が流れた。


「・・・・・490。」

「はっ?!」

「なんじゃ。」


再び伊崎大悟があたしを睨む。


「490?!5教科で?!?!?・・・・・頭どうなってんの?」

「は?」

「だって全部90点代じゃないと取れないでしょその点数。」

「そうじゃな。」

「えー・・・。」


また沈黙が流れたあとあたしの頭にある言葉が流れた。


「「あの二人ほんまは退学レベルの悪なんじゃけど頭だけはええのよ。
 じゃけえ先生たちも強ぉ言えんの。」」


「あ・・・・。」

「なんじゃ!うるさいのぅ!!」


そうだ。こいつ金髪だし人の事睨むし冷たい目してるけど頭がいいんだ。
だから先生たちも何も言えないってあやかも言ってた。


「伊崎くん!!!!!!!」

「なに。」

「お願い!!!!!勉強教えて!!!!」

「はぁ?!」


あたしは机に頭をつけながらお願いした。


「あたしやばいんだって!!!!!!全教科20点代なの!!!」

「・・・・・・・。」

「ここで50点以上とらないと授業ついていけないし、もしかするともう一回2年生しなきゃ・・・。」

「・・・・・・・・・。」

「お願いします・・・。」


伊崎大悟は溜息をついてあたしのそばにきた。
あたしは顔をあげて伊崎大悟を見た。
金色の髪の毛がエアコンの風にゆれてキラキラ光っていた。


「しゃーなし教えてやるわ。」

「・・・・・・・あ、ありがとう!!!!!!!!!」


あたしは勢いよく頭を下げた。「ゴンッ」と音がした。
それを見て伊崎大悟は「お前アホなんじゃ」ってくすくす笑った


それから1週間あたしと大悟の勉強が始まった。



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