肉食系男子に、挟まれて【完結】
「それじゃ、行こうかな。頑張って下さいね」
「はい、それじゃ」
手を振ってから、私は机に向かいカバンを置く。
それから楽譜を出すと、筆記用具なども持って音楽室へと向かった。
もちろん、校内に生徒はほとんどいない。
シンっとしている廊下を歩くと、私の足音だけが響いた。
音楽室に到着した私は、中に入るとカーテンと窓を開ける。
外から運動部の元気な声が聞こえて、思わず頬を緩めた。
「さて、と」
ふうっと一息つくと、私はピアノに向かい合った。
楽譜を並べると、鍵盤に手を置く。
躓きながら、何度も音符をなぞって行った。
ここは、強弱つけて。うんっと、ここも。
筆記用具を取り出すと、少しずつメモをしていく。
多分、本番までにこの楽譜は真っ黒になるんだろうな。
それが容易に想像出来て、少し苦笑した。
これが要領悪いと言うのなら、それでもいいかな。
なんて、ぽつりと思った。
「……安西、先生?」
突然、声がして鍵盤を叩く手を止めてそっちを見る。
私はその姿を見て目を真ん丸にした。
扉に立っていたのは、久住君だった。