肉食系男子に、挟まれて【完結】
「はあ、満腹だっ」
沢さんに挨拶してから、定食屋を後にした私は腕を伸ばしてそう言った。
「安西先生、ご馳走様でした」
「いえいえ」
「また誘ってくれますか?」
「こちらこそ、またピアノ教えて下さい」
「ふふ、もちろんです」
笑いながら、彼のふわふわの髪の毛が小刻みに揺れる。
「俺だけ知ってる先生の一面ですね」
「あ。ご飯食べた事とか内緒にしててよ?」
「あはは。了解です」
「それじゃ、久住君の家はどっち?」
「え?」
「え?じゃなくて、遅くなって来たし、近くまで行くから」
「……先生、俺男なんですけど」
「いや、それはわかってるけど」
私にとったら、大事な生徒だからね。
もしもの事があったら、どう言えばいいのかわからないし、そうなった時は自分をきっと責め立てる筈だ。
「あの、前から思ってたんですけど……」
久住君は大きな溜め息をつくと、髪の毛を掻き上げる。