肉食系男子に、挟まれて【完結】
扉に寄りかかり、私に笑顔を向けるのは久住君だった。
「久住君」
「俺がこないだ言った事、先生全く以って出来てないです」
まじか。出来ていないか。
メモったつもりだったんだけど。
そして、それを実行しているつもりだったんだけど。
久住君はピアノ前まで来ると、私の後ろから腕を伸ばして楽譜を指差す。
「ここ。この入りですけどね」
それから、私の手の上に自分の手を乗せると一緒に鍵盤を押していく。
……ち、近い。
触れている。
頭、パニックなんですけど。
ちょ、ちょっと待って。
私があわわとしている間に、久住君のレッスンは終わっていた。
「では、先生。やって下さい」
久住君は至って普通だ。
何でそんな普通なんだ。
ここまで意識している私がおかしいのか。
「どうしたんですか?先生」
久住君はそう言うと、私の顔を覗き込む。
それがあまりにも近距離だったから、私は思いっ切り仰け反ってしまい、後ろに倒れ込みそうになった。
倒れる寸前で、久住君が支えてくれたからどうにか痛い思いはせずに済んだけど。