肉食系男子に、挟まれて【完結】

「皆さん、めっちゃ上手くなってません?」


演奏が終わった後、春斗が後ろを振り向くと先生方にそう言う。
皆も、笑顔でよかったね、なんて声を掛け合っていた。


ふっと春斗を見ると、ばちっと目が合う。
ドキンっと大きく心臓が跳ねた。

すぐに逸らされると思った視線は、絡み合ったまま。


それから、春斗は目を細めると口を開く。


「安西先生、すっごくピアノ上手くなってましたよ」


それはまさかの褒め言葉で、

「あ。ありがとうございます」

と、私の返事は尻すぼみになってしまった。


「練習頑張ってましたからね」

「そうだね、安西先生は本当に真面目だから」


なんて、すぐに他の先生も褒めてくれて、どこか気恥ずかしい。
だけど、頑張っていた事を褒められると嬉しくなって来る。


やっぱり単純だ、私は。


それから何度も練習をして、終わった時には外が大分暗くなっていた。


「はあ、楽しかったねえ」

「そうですね」

「本当に安西ちゃん、練習頑張ったんだね。
凄いよくなってた」

「えへへ」


辻先生にまでそう言われると、照れてしまう。


楽譜を持つと音楽室から、皆でぞろぞろと出て行く。
職員室に戻った私と辻先生は飲みに行くために一緒に学校を後にした。


結局、春斗とはそれきり話していない。
職員室で挨拶だってしていない。

距離を取るって言われたんだ。じゃあ、仕方がないじゃないか。


痛む胸を無視して、自分をそうやって無理矢理納得させるしかなかった。

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