贖罪




「どうぞ」





一颯と汐里、瀬戸は被害者二人が勤めていた会社へと聞き込みに来ていた。
三人分のお茶を出され、「ありがとうございます」と一颯が頭を下げる。
ちなみに席順は汐里、一颯、瀬戸と並んで座っているて間に一颯がいるのは水と油の喧嘩防止だ。






「被害者について何点かお聞きしたいのですが、よろしいですか?」





一颯達の前にいるのは被害者二人のそれぞれの上司だ。
上司の話によれば被害者二人は共に勤める製薬会社の営業をしており、部署が異なるせいか、お互いを名前だけ知っているという認識だったようだ。





「恨みを買うような人柄だったり、逆に誰かを恨んでいたという話を聞いたことは?」





「いえ、ないと思います。片山は真面目で、後輩指導も積極的にやってくれていたのでむしろ、慕われていたように思えます」





「才賀は少々調子が良いところはありましたが、それを嫌っているものはいなかったと思います。誰かを恨むという性格でも無かったかと……」





汐里が質問し、一颯と瀬戸は返答をメモする。
被害者二人は恨まれるような人間でも、恨むような人間でもなかった。
だが、人というものは他人が見ている姿が真実とは限らない。
見えない姿が必ずあるのだ。





「そうですか。質問は以上です。お忙しい中時間を取って頂きありがとうございます。では、これで」





被害者二人の上司に頭を下げ、一颯達は部屋を出る。
すると、そこにはお茶を出してきた女性が立っていた。
どうやら、出てくるのを待っていたらしい。






「あの、片山さんと才賀君を殺した犯人は分かったんですか?」





「失礼ですが、貴女は?」





一颯は少し警戒しつつ、女性を見た。
自分達が出てくるのを待ってまでそれを聞きたかった訳ではないだろう。
そんなことを思いつつ、彼女の返答を待つ。






「私、実は片山さんと付き合ってたんです。才賀君とも同期で仲が良かったので……」







一颯は汐里の方を振り返る。
被害者二人の交遊関係を捜査した際、その中で共通して浮上した女性の名前があった。
それが彼女なのだとしたら、何か知っているかもしれない。
汐里は一歩踏み出すと、彼女の前に立つ。





「お名前を伺っても?」





色島望(いろしま のぞみ)と言います」





色島望。
被害者二人の交遊関係の中で共通して浮上した女性の名前だ。
一颯達は彼女に時間を取ってもらい、話を聞くことになった。




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