贖罪


「もしかして……」





一颯はまとめてあった聴取の内容を見直した。
いきなりの彼の行動に、汐里と瀬戸はなんだなんだと近付いてきた。
何度も見た資料なので、聴取をした家族や会社関係者、近隣の人間に怪しい点が無いことは分かっている。
だが、怪しい点が無いからこそ怪しいのだ。





「どうした、浅川?」





「聴取には怪しい点はありませんよ?」






「怪しい点が無いからこそ怪しい。目撃者が無いのは自宅内で行われたから。外の防カメの映像が無いのは意図的に設定を変えられていたのではなく、犯人は外から来ていないから」





何故この点を見逃していたのだろう。
人はどうしても、最初に見た姿を印象と取り、その印象が抜けなくなってしまうときがある。
苦手と思った人がいつまで経っても苦手意識が消えない。
どんなにいい人であっても、だ。




今回はそれがいい例になってしまった。
悲しみに暮れている姿を見ていたからかもしれない。
被害者家族と印象がついてしまえば、それは被害者家族という印象が消えない。
だから、決して犯人ではないと疑わなかった。
疑うことが仕事と言っていたのに。





「……あの時の違和感はこれか」





一颯は髪をぐしゃりとかき上げる。
四人目の被害者が殺害されたとき、淡々としている長女に違和感を覚えた。
それは混乱していて、逆に冷静になっていたのかもしれないと思っていた。
それと同時に、被害者が殺害されると分かっていたのかもしれないという憶測もあった。
結果的には後者が正しかったようだ。






「京さん、ようやく引っ掛かりの意味が分かりました」





「言ってみろ」





「俺達警察は七つの大罪の強欲の仕業だと思っていた。まず、それが犯人達の思う壺だったんです」







「現に強欲、avaritiaと蜘蛛のモチーフが残っていましたよ?」






「それが犯人達の思う壺なんだよ、瀬戸。犯人達は俺達が七つの大罪の事件に振り回されていることを知り、利用した。自分達から疑いを反らすために」






七つの大罪が引き起こしている連続事件は連日メディアで取り上げられている。
非難する世間の声もあれば、肯定する世間の声もある。
それを模倣するかのような事件も起きており、報道規制をかけるべきかと今更ながら思うほどだ。
ふと、汐里が一颯の言っていることに疑問を抱く。






「……待て、浅川。お前、さっきから犯人達って言っているが、犯人は複数なのか?」






汐里がその点に気づいていなかったのは珍しい。
怪しいと思いながらも疑いきれない。
被害者家族の傷心しきった姿を見ていたのであれば尚更だ。
だから、被害者家族の聴取の証言を真に受け、疑わなかった。





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