贖罪


「自己犠牲が強いのは父親譲りか……」





汐里は苦笑を漏らすと、うつ向いて唇を噛んでいる一颯の肩を叩く。
そして、篁の方を見た。





「東雲官房長官が貴方がたに流した情報をこちらにも開示して頂きたい。あと、今回の東雲官房長官の殺人未遂を立証する証拠も」






「情報は開示します。ですが、殺人未遂を立証する証拠は――」






「嘘は止めてください。ムカつくことですが、兄がみすみすと協力者を死なせるようなことをするとは思えない。仮に死なせたとしても、その罪を問えるくらいの証拠を作るはずです」






汐里は良くも悪くも兄のことをよく分かっている。
頭が良くて運動もできる。
ノンキャリアの汐里と違って、大卒のキャリア組で警察庁のエリート。
だが、それを傲ることは無い。




父が死んでから下の弟達の父親がわりになり、時には母を助ける。
たった一人の妹を大切に思っていて、誰よりも家族を大切に思っている。
そんな兄を汐里は尊敬し、慕っていた。
それと同時に劣等感を抱かせる対象として嫌悪している。





「……汐里さんは侑吾さんが嫌いなんだと思ってました」






「嫌いですよ、警察官としては。でも、たった一人の兄でもあるので」






「素直じゃないのは兄妹揃ってですね。貴女の言うとおり、京警視は東雲官房長官の執務室を盗撮、盗聴していました。ですが、久宝に気付かれ壊されてしまいました」





篁がスーツのポケットから取り出したのは壊れた盗撮カメラと盗聴器だった。
どちらも修復不可な程壊されており、証拠になるはずのデータは完全になくなっていた。
ふと、一颯がハッと顔を上げた。
突然一颯が顔を上げたものだから、汐里と篁はびくりと肩を揺らす。






「それ、見せてください」






一颯は篁から壊された盗撮カメラと盗聴器を受け取り、じっと見た。
久宝はとある失敗を犯していた。
それに気付いた一颯はニヤリと笑う。





「これ、データ復元出来ると思います。恐らく彼なら」






「彼?」





「綾部光生です。彼はハッカー、こう言ったデータ情報に関しては明るいはずです。それに、壊された盗撮カメラと盗聴器は一見派手に壊されてますが、肝心のモノは――」






一颯は壊された盗撮カメラと盗聴器のカバーを慎重に外すと、中からメモリーのようなものを取り出した。
それはデータが収められているSDカードで、ひび割れがあるもののどうにか復元出来そうな程形を保っていた。
汐里と篁は顔を見合わせると、拳をぐっと握りしめた。





「よし!これで殺人未遂が立証出来る!浅川、署に――」





すると、汐里のスマートフォンに着信が入った。
汐里はディスプレイに表示された名前に眉をひそめると、電話に出た。
だが、すぐに「は?ふざけるな!」と荒々しい口調と共に電話を切ってしまった。






「京さん、どうしたんですか?」






嫌な予感がした。
そんなことがあってはならないと信じたい。
そんなことがあっては久宝の罪は裁けないし、父が身体を張った意味がなくなってしまう。
だが、汐里の発した言葉は一颯を絶望させた。








「赤星からの連絡だ。久宝の捜査が上の命令で打ちきりになった」

















≪後編に続く≫
< 146 / 185 >

この作品をシェア

pagetop