贖罪
「浅川、良いから病院に――」
「それに、民間人を見捨てて父を助けに向かったと目覚めた父が知ったら、俺が父に殺されます。『お前は警察官だろ、身内よりも民間人を守れ』って」
ハンドルを握る一颯の手に力が籠り、まっすぐ前を見据えるめには微かに涙が滲んでいるようにも見えた。
彼の言葉と姿で、汐里は我に返る。
病院に真っ先に向かい、父の安全を確保したいのは息子である一颯だ。
だが、一颯は父よりも民間人を助けることを選んだ。
薄情者、親不孝者――。
そんな言葉を誰かが一颯にぶつけるかもしれない。
それでも、一颯は警察官。
たった一人の父親よりもより多くの人々を守らねばならない。
それが一颯が選んだ道なのだ。
「……現場に急ぐぞ」
「はい」
現場へ向かえば、そこは既に地獄絵図。
爆発が起きたのは路上に停められていた車とビルのワンフロア、そして、地下鉄の出入り口だ。
現場は煙と炎、瓦礫で覆われていた。
怪我人も多数いて、既にパニック状態だ。
一颯と汐里は避難誘導をしつつ、近くにいた消防の人に警察手帳を見せ、話をする。
「被害の状況は?」
「今の状況では未知数です。車両の爆発とビルの爆発は今確認中で、地下鉄の出入り口に関しては崩落の危険もあり、立ち入りが難しく……」
「通報にあった異臭は?」
「恐らく、ガソリンの臭いかと」
爆発物に加えて、ガソリンとなればかなり大きな被害が出そうだ。
一颯は消防の人と汐里の話を聞きながら、辺りを見渡す。
周りには瓦礫と煙と炎、そして、怪我人や救助されている人達の姿があった。
――突然、ガシリと肩を掴まれた。
「お前ら警察か!?何で犯罪者をちゃんと捕まえてなかったんだよ!?これ、七つの大罪の仕業なんだろ!?」
一颯の肩を掴んだのは爆発の現場に居合わせたサラリーマンらしき男で、怒りからか目が血走っていた。
まだ七つの大罪の仕業とは限らない。
だが、メディアが久宝の逮捕と七つの大罪の事件関連のことを多く取り扱ったせいか、断定している民間人も多いようだ。
現に男以外にも、居合わせた者達が一颯と汐里達の方を見ていた。
「まだ断定は――」
「お前らの仕事は犯罪者を取り締まることだろ!?仕事しろよ!この公僕が!」
不運にも爆発現場に居合わせ、死を間近に感じたことで恐怖が精神を蝕む。
だが、一颯達警察官も人間だ。
恐怖を抱く民間人の気持ちも分かるが、全てが完璧にこなせるわけではないのだ。
背後で汐里がキレそうなのを感じつつ、一颯は男の手を掴んだ。