贖罪
「何故殺した?お前の仲間だろう」
一颯は出来るだけ平静を装う。
此処で平静さを失えば、神室の思う壺だ。
もし、一颯が刑事という立場でなければ、彼は神室を殺していただろう。
それほど、一颯にとっては憎い相手だ。
いや、一颯だけでなく、汐里にとっても、だ。
「アレは傲慢過ぎた。いずれ、僕にも噛み付くほどにね。だから、殺した」
「お前は命を軽く見過ぎだ。久宝は生きて、罪を裁かれるべきだったんだ」
「いいや、アレは大人しく裁きを受けるような人間じゃない。受けたとしても、君達警察に後々あらゆる手を使って報復するよ」
神室は目を細めて笑うと、広間に飾られた絵に触れた。
それは九枚ある中で、重い石を背負って膝を折り曲げる男が描かれたものだった。
その絵をよく見れば、その絵に描かれた男は何処か久宝に似ていた。
その絵だけではない、他の絵もそれぞれ七つの大罪の罪人達に容姿が似ていた。
「……贖罪って訳か」
ふと、汐里がポツリと呟く。
一颯が彼女の方を見れば、汐里は絵をただじっと見ていた。
贖罪、犠牲や代償を払い、罪をあがなうことだ。
一颯にはまったく意味が分からなかったが、神室は満足げな顔をしていた。
「よく気付いたね。汐里ちゃん。そう、この絵は七つの大罪の罪人達が罪を浄化される為に行うべきことを描いたんだ。彼らは大罪人、天国にも地獄にも行けない。彼らの行く先は煉獄だよ」
「煉獄……?」
「天国にも地獄にも行けない者が行く場所。煉獄で受けた苦に耐えれば、罪は浄化される。それが贖罪さ」
七つの大罪の罪人達は己の意思もあれど、神室の命令で罪を犯した。
それなのに、神室は一方的に贖罪を求める。
絵に描いたところで罪人達の罪が浄化される訳もないし、贖罪になるとは思えない。
そんなことで贖罪になるならば、罪を裁く立場の人間を必要としない。
「……お前は何処までも自己中心的か男だな。生きてる価値がないほどに」
汐里は絵を見ていた視線を神室へ向けた。
そして、銃口をまっすぐ神室へと向け、目を細める。
彼女からは明確な殺意を感じる。
汐里は今にも引き金を引き、神室を撃ち殺してしまいそうだった。
そうなれば、彼女の刑事としての人生は終わってしまう。
一颯にはそれが耐えられなかった。
刑事としての人生を終えるのは自分だけだ良い、そう思った瞬間――。
――目の前に赤が散った。