贖罪
「大学生のインターン?」
翌日。
一颯は汐里と共に捜査一課の課長である司馬に呼ばれ、課長室に来ていた。
司馬によれば、警視庁付きの記者を目指す大学生がインターンで一颯のいる署を訪れるらしい。
どうやら、《ワケアリ》のようで、酷く面倒な匂いがする。
「そう」
司馬が差し出した資料を一颯と汐里はそれぞれ受け取り、固まった。
インターンに来る大学生は女の子。
名前は瀬戸麗。
とても馴染みのある名字である。
「あの、この瀬戸って……」
「そう。瀬戸署長のご息女で、瀬戸の妹だ」
一颯のひきつった顔に、司馬の顔もひきつる。
汐里に限っては無言だ。
彼女の無言が一番怖いと一颯は、いや、捜査一課の面々は知っている。
声を荒上げて怒っているときの方がまだ可愛いものだと思うくらいに。
「署長からの伝言だ。『二人は息子の教育係としてよくやってくれている。頼もしかった息子が更に頼もしくなったように思える。娘のことも頼むよ』とのことだ」
「……ははは、司馬さん声真似お上手ですね」
司馬は咳払いをして、署長である瀬戸の父の声真似をしながらそう告げる。
その声真似が妙に似ているから笑える。
笑えないが、一颯は笑う。
司馬自身もふざけた訳ではないが、無言の汐里が怖すぎてふざけて笑わせようとしていたのだが……。
当の本人は今に無言で資料を見ている。
一颯は汐里を一瞥して、司馬に視線を向ける。
そして、目で会話する。
目で会話しているのを書き表すとこうだ。
「無言怖いんですけど」
「キョウさんが怒ったときに似てる」「え。なら、この後どうなるか分かってます?」
「勿論。君も分かってるだろう?」
「分かってるから聞いてるんですよ」
目で会話しているとは思えないほど、会話が成り立っていた。
二人の共通認識は汐里は無言ほど怖い。
それは汐里の父、太志が刑事だった頃も同じだったようで相棒だった司馬は大変だっただろう。
現に汐里の相棒の一颯は苦労している。
無言、ひたすら無言。
――その後、突拍子もなく。
「私は何も聞いてないし、見てませんので。……よし。まず、瀬戸をぶん殴る」
「「出た。支離滅裂理不尽論」」
一颯と司馬の言葉が重なる。
汐里はそんな二人ににっこりと笑って、課長室を出ていく。
まずい、瀬戸が殺される……。
一颯は直感的にそう感じ、慌てて汐里の後を追いかけた。
その後は言わずもがなという事で、割愛。